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任天堂「WiiWare」と苦悩する中堅ゲーム会社GDC報告(COLUMN1)
 米サンフランシスコで3月23〜27日に開催された「ゲーム開発者会議(GDC)」報告の最終回。今回は、ゲーム機市場で1人勝ちとなった任天堂「Wii」のネット流通の仕組み「WiiWare」が現状抱える課題と、新たな販売チャネルへの対応に試行錯誤するゲーム会社の状況について取り上げる。
■不確かな情報しかないWiiWare市場
 今年のGDCの目玉の1つは、3日目に行われた任天堂岩田聡社長の講演だった。4月5日に北米市場での「ニンテンドーDSi」の発売が控えていたタイミングであり、開発者にどうアピールしてくるかが注目された。
 「やはり」と感じたのは、岩田社長が「WiiWare」と「DSiWare」を取り上げ、任天堂は中小規模のゲーム会社にも開かれたネット流通市場を持つと強調した点だ。「開発のしやすさがそのポイントであり、多くのチャンスがある」と述べた。
 しかし講演でWiiWareの具体的な数値データは何ら示されず、市場が成長しているのかどうかすら分からないという事態は変わらなかった。今回に限らず、任天堂は過去の販売実績を一切公開していない。ゲーム会社は確かな情報がないなかで、WiiWareに参入することの損得を天秤にかけなければならない。
 北米で08年5月に始まったWiiWareには、09年3月末時点で77タイトルが登録されている(日本は08年3月開始で85タイトル)。価格は日本とほぼ同等の1本5〜15ドル。任天堂自体のタイトルは5本だけと少なく、新規参入の開発会社にもチャンスがありそうにみえる。
 ただ、これまでの販売は期待されたほどでもないとの指摘もある。
バーチャルコンソールと競合
 米Gamasutra誌のサイモン・カーレス氏はGDCの講演で、WiiWareの販売情報サイト「VG Chartz」のデータを基に、WiiWare市場の動向を分析した。カーレス氏はVG Chartzのデータについて「信憑性は低いが他に参考になる情報がない」と前置きしたうえで、昨年12月末にVG Chartzが発表したWiiWareの2008年の世界ゲームソフト販売本数を引用した。
 それによると、1位の「みんなのポケモン牧場」(任天堂)が49万5500本、2位の「ファイナルファンタジークリスタルクロニクル(FFCC)」(スクウェア・エニックス)が43万4000本、3位の「TVショーキング 」(GameLoft)が39万4400本、4位の「Dr.MARIO&細菌撲滅」(任天堂)が34万6900本、5位の「Lost Winds」(Frontier、日本未発売)が29万5400本、6位の「ブルーオアシス〜魚の癒し空間〜 」(ハドソン)が25万7900本という結果になっている。
 上位タイトルは数十万本という実績だが、08年末に世界4000万台に到達したハードとしては、販売数が少ないという印象がぬぐえない。
 カーレス氏は現在のWiiWareが抱えるいくつかの問題点を指摘した。一つは、お試し版をリリースする仕組みがなく、プロモーションが難しいということ。ユーザーは「絶対安心」なタイトルだけを購入しがちで、一部の上位タイトルが長く売れ続ける傾向にある。
 また、過去のゲームソフト270タイトルを販売しているもう1つのネット流通の仕組み「バーチャルコンソール」との競合もある。VG Chartzの推計では、「スーパーマリオブラザーズ」シリーズの合計販売は欧米でそれぞれ100万本を超えている。任天堂の過去の大ヒットタイトルとの競争が楽なわけがない。
■多くの既存企業が直面するジレンマ
 今年のGDCから見えてきたのは、「Xbox360」や「プレイステーション3」向けの大規模タイトルの成長の限界と、「iPhone」など多様なネット流通市場の登場によるルールの劇的な変化だ。この動きは、今後さらに速度を増していくだろう。
 GDCの会場で、ある日本の中堅開発会社のCEOから「我々はどこに行くべきなのでしょうか?」という切実な悩みを聞いた。どの市場に狙いを定めればいいのか、従来の開発会社が自信を持てない時代が訪れつつある。同じような感想は他の大手企業の参加者からも聞いた。
 今回のGDCで浮かび上がった業界の変化は以下のようにまとめられる。
・ネット流通を中心とした市場では、社員数人しかいない新興企業が台頭している。しかし、数百人規模の企業がその市場に参入しても、社員数を維持できるほどの売り上げや利益を上げることはできない
・巨額の開発費をかける大型タイトルは収益面で苦しいが、死んだわけではない。08年はかつてないほど多数の傑作ゲームが登場した。しかし、その開発コストは中堅企業が参入できるレベルではなくなっている・中規模なゲーム市場では、任天堂との厳しい競争がある
 この問題については、会期中に様々な人と議論した。しかし、今はまだはっきりした答えが見えているわけではない。
■独立系ゲーム会社の先駆者の苦戦
 それは日本企業だけでなく、米国企業も直面する厳しい環境である。
 独立系ゲーム会社の市場をいち早く切り開いてきた著名なゲームデザイナー、エリック・ジマーマン氏のGameLabが倒産に追い込まれていたということを、本人から聞いて驚かされた。
 ジマーマン氏のGameLabは、パソコンの「カジュアルゲーム」市場が登場しはじめた5年前ほどからネット販売で成功し、スタジオの規模を拡大していった。しかし、カジュアルゲーム市場では質より量が求められ、そのなかで独立系企業なりの「質」にこだわり苦しんだようだ。一方、社員数人で速度重視でビジネス展開する新世代のネット流通への対応には出遅れた。
 「オレはゲームのビジネスをしたいんじゃなくて、ゲームをデザインしたいんだよ」と、いつもはパワフルな彼が珍しく肩を落としていたのが印象的だった。米国では倒産してもやり直しが容易なので、またすぐに舞い戻ってくるだろうが、彼の苦境は今の変化の激しさを物語っているように感じた。



人は切っても戦略投資は削らず 米ハイテク企業の流儀 <COLUMN2>
 100年に一度といわれる世界不況。震源地の米国ではハイテク業界も失業者であふれている。にも関わらず、AT&TやIBMはデータセンター建設に力を入れ、シスコシステムズやオラクルは企業買収を続けている。雇用確保が叫ばれる日本の企業と違い、なぜ米国企業は「人の首は切っても戦略投資は続ける」のか。そこには米国流の不況ルールが見え隠れしている。
■不況でも戦略投資を続けるAT&T
 AT&Tが国際ネットワークに10億ドルを投資する──。2月下旬、通信業界に明るいニュースが飛び込んだ。
 1990年代、米国にはワールドコムやMCIなど様々な通信事業者がいたが、ここ8年ほどの買収・再編劇で主要な通信ビジネスはAT&Tとベライゾン・コミュニケーションズの2社に集約されてしまった。そのため、不況でトップ2社が投資を削減すると、通信機器ベンダーはほかに機器を売り込むところがなく窮地に追い込まれる。特にAT&Tは、1万人を超える大量解雇を公言していたこともあり、その投資動向に注目が集まっていた。
 しかし、ふたを開けてみると、AT&Tの今年の設備投資見通しは前年比でマイナス10%から15%。1万人もの解雇を進めている割には、投資削減は小幅だ。しかも、投資内容を見るともっと驚く。不況なら「新規投資は凍結し、保守など必要最低限の費用に絞る」のが妥当に思えるが、AT&Tはその逆をいく。
 古い加入電話網などの予算を大幅カットする一方で、3.9Gから4Gの次世代携帯網やIPTVには、従来通りの投資を続ける。また、国際ネットワークおよび関連サービスにも、昨年同様10億ドルの予算を付けている。
 国際ネットワークの投資内容をみると、(1)海底ケーブルの整備(2)英国とオランダのデータセンターの強化(3)ホスティング、マネージドサービスの強化(4)企業向けイーササービス――など。すべて戦略投資分野である。
 確かに電気、ガス、水道、通信などのユーティリティー産業は、景気の変動を受けにくい業種ではあるが、それにしてもAT&Tの「大量解雇と積極的な戦略投資」は際だっている。携帯電話業界3位のスプリント・ネクステルや、サン・マイクロシステムズとの買収交渉で注目を浴びたIBMなど、AT&Tと似た戦略をとる米国企業は結構多い。
■雇用重視の企業も投資は削らず
 もちろん、すべての企業がAT&Tのような経営をおこなうわけではない。たとえば、シスコシステムズは受注の減少に悩みながらも、大量解雇は避けようとしている。それでも代わりに投資をカットするわけではなく、小型カムコーダーのベンチャーPure Digital Technologyやデータセンター向けソフトウエアのTidal Softwareを買収している。前者は一般家電市場、後者はデータセンター市場というシスコの戦略投資に沿ったものだ。
 このほか、経営破綻で部門売却を模索しているノーテル・ネットワークスには、ノキアシーメンスネットワークスなど多くの企業が目を付け、携帯電話部門などの獲得に力を注いでいる。また、過去にピープルソフト(103億ドル)、シーベル(58.5億ドル)、BEA(85億ドル)などの大型買収を続けてきたオラクルは、不況に入ってからも医薬管理ソフトのRelsysなどニッチ市場の中小企業を狙って買収を続けている。
 電話業界第2位のベライゾン・コミュニケーションズもAT&Tとは異なり解雇などに踏み切ろうとしないが、光ファイバー加入線(FTTH)の整備や次世代携帯ネットワークなどの戦略投資を続けている。
 このように深刻な不況にもかかわらず、米国のハイテク企業が買収や戦略投資をやめないのはなぜだろうか。そこには「不況下で株価を維持するための暗黙のルール」が働いている。
 たとえば、AT&Tの場合、過去数年間の大型買収によって企業規模が急拡大した。同時に「余剰人員を抱えている」と証券業界は分析している。この不況下でAT&Tが大規模な人員削減を発表しなければ、株価に悪影響を与えることになる。一般に、不況に入ったら、まず従業員の削減でコストをカットし、マーケットを安心させることが原則のようになっている。
 それと同じ理由で、戦略買収や戦略投資も削減できない。こうした投資をやめれば、中長期的に企業競争力が落ちるとみなされ、株価が下がってしまうからだ。内部留保に余裕があれば雇用維持に努めるが、戦略投資を削っての雇用維持は許されない――。それが、不況を生き残るための米国企業の流儀といえる。
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 こうして見ると同じ資本主義の下でも、不況に対する企業行動は日本と米国で大きく違う。人材こそ企業競争力の源泉とまでは断言できないが、日本の経営者にとって雇用維持が最優先の課題なのは間違いないだろう。また、日本の株主が「日本経済や社会の安定」といった観点から、そうした企業行動を容認することも大きな違いといえる。
 日本と米国、どちらの流儀がよいかはわからない。しかし、「米国は不況に陥るのも速いが、立ち直るのも速い」といわれる理由は、戦略投資を続ける米国流企業経営の故かもしれない。