サムスンに立ちはだかる新・巨大企業

サムスンに立ちはだかる新・巨大企業
 世界シェアトップの薄型テレビに続き、スマートフォンタブレット型多機能情報端末でも新製品を投入し、破竹の勢いを見せる韓国のサムスン電子。その行く手を遮ろうとする巨大企業が現れた。世界最大のEMS(電子機器の製造受託サービス)である台湾・鴻海精密工業だ。
 鴻海の郭台銘・董事長は10日、液晶パネルの価格カルテル制裁金問題で、鴻海傘下の奇美電子が不当な制裁金を課されたとして欧州連合(EU)に抗議した。郭氏は液晶価格のカルテルを主導したのはサムスンら韓国勢であるとの見方を示し、サムスンがEUにカルテル情報を提供したことで制裁金を免れた手法に強い不満を表明した。
 「鴻海?どこかで聞いた名前だな」と思った方も多いかもしれない。そう、「米アップルの製品を生産する台湾系中国工場で労働者が次々に自殺した」と報じられた、あの企業だ。「一介の下請けが巨大なサムスンにかなうはずがない」と早とちりをしてはいけない。
 サムスンは昨年の連結売上高がほぼ10兆円だが、鴻海も互角の規模を誇る。鴻海は自殺スキャンダルで沈むどころか、アップルの「iPhone(アイフォーン)」、「iPad」を支える裏方として売上高を伸ばしている。10月の売上高は前年同月比5割増の2429億台湾ドル(約6750億円)。今年の連結ベースの売上高は3兆台湾ドル弱が予想され、来年には「10兆円企業」入りも視野に入る。
 鴻海はパソコン関連のEMSのイメージが強かったが、昨年にソニーのメキシコのテレビ工場を買収。今年はソニーからスロバキアのテレビ工場も買い取った。鴻海が得意とするテレビ、スマートフォンタブレット型端末はまさにサムスンの主要生産品目と重なる。
 鴻海はさらに、液晶パネル世界4位だった台湾の奇美電子を買収し、サムスンが首位の液晶分野でも追い上げる。今年11月には上海で独流通大手のメトロと組み、家電量販店「万得城」を開店。川上から川下まで手がける“総合家電メーカー”に変身できる体制を整えたようにも見える。
 唯一足りないのは「自社ブランド」の製品だけだ。アップルや米デル、ソニー向けに製品を組み立ててきた関係上、納入先と競合する自社ブランド製品の投入は見合わせてきた。今のところEMSのビジネスモデルを捨てる気はなさそうだが、EMSで培った生産技術を利用し、自社ブランドを持つメーカーに変身するのはそう難しくはない。
 米IBMの下請けだった台湾の宏碁(エイサー)は自社ブランドを確立し、世界で通用する企業となった。最近ではやはり台湾EMSの宏達国際電子(HTC)がグーグルの無償OS(基本ソフト)「アンドロイド」を使った自社ブランドのスマートフォンを販売。米国ではアップルに並ぶ人気ブランドになっている。
 鴻海はいつでも自社ブランドを持つ巨大な家電メーカーに変身する潜在力を秘めている。10兆円家電メーカーが見あたらない日本を尻目に、韓台の10兆円家電企業が世界で激突する日はそう遠くないかもしれない。カルテル制裁金を巡る両社の対立はその前哨戦といえる。



光回線「15年までに半額」 政府、NTTに要請へ
 政府は光ファイバーなど超高速通信網を全世帯に普及させる「光の道」構想で、NTTに対して2015年までに光ファイバーの利用料金を現在の半額程度に引き下げるよう求める方針を固めた。NTTが他の通信会社に光回線を貸し出す際の接続料の引き下げで実現を目指す。引き下げ幅はNTTの判断に委ねるが、下げ幅が十分でなければ、13年をメドにNTTの光回線部門の分社化も改めて検討する。
 片山善博総務相らが14日に会合を開き、利用料金を巡る政府方針を決める。その後、NTTの光回線部門と他部門の業務分離を明確にするため来年の通常国会に提出予定の電気通信事業法改正案とともに、方針を閣議決定する。
 NTTの光回線網については、総務省の作業部会が先月末に最終報告書で、回線部門を分社化する案を見送る一方で、「料金引き下げが必要」と指摘した。ただ具体的な引き下げ幅などは示さず、民主党議員などから「実現可能性が低い」といった批判が出ていた。
 光通信サービスの利用料金は現在、月額6500円前後。政府はこれを通常の電話回線を使うADSL並みの3500円程度に下げる方針だ。
 利用料のうち4千〜5千円分は、光回線の7割以上を持つNTTから他の通信会社が回線を借りる際の接続料が占める。NTTの鵜浦博夫副社長は11月の民主党議員の会合で、光回線の利用料について「できるだけ早い時期にADSL並みに下げたい」と述べた。



GE、日本で医療IT
来年参入、画像データ管理
 【ニューヨーク=小川義也】米ゼネラル・エレクトリック(GE)は日本で医療向けのIT(情報技術)サービスに本格参入する。日本国内にデータセンターを新設、2011年から画像診断装置で撮った画像データや電子カルテの管理などを医療機関から広く受託する。会計などの業務ソフトも提供し、医療機関の経営効率化を支援する。医療機器世界大手のGEの参入で日本の医療分野のIT化に弾みがつきそうだ。(関連記事企業面に)
 GEの医療事業部門、GEヘルスケアのジョン・ディニーン社長兼最高経営責任者(CEO)が日本経済新聞記者に明らかにした。
 ディニーンCEOは15年までに医療IT分野に世界で20億ドル(約1650億円)を投資すると表明、日本での事業拡大もその一環。日本の医療ITの市場は現在年2500億円規模で、今後急速な拡大が見込まれる。高齢化の進展や医療ITを成長戦略の重点課題に位置付ける日本政府の政策もにらみ、商機は大きいと判断した。
 GEはインターネット/経由で各種のITサービスを提供する「クラウドコンピューティング」方式で日本市場に参入する。来年にデータセンターを設け、病院がコンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)で撮った患者の画像データ管理を引き受ける。電子カルテなど画像以外のデータ管理も請け負う。



ネット通販書籍3万点閲覧可能 セブン&アイ
 セブン&アイ・ホールディングスは書籍のネット通販事業を強化する。雑誌や書籍の一部をスマートフォン(高機能携帯電話)などで閲覧できる「立ち読み」サービスの対象を米グーグルの基本ソフト「アンドロイド」搭載端末に拡大。立ち読みできる書籍などの品ぞろえも現在の15倍の3万点に増やす。
 セブン&アイ傘下のネット通販事業会社セブンネットショッピング(東京・千代田)が12日からサービスを始める。立ち読みサービスの拡充と併せて、検索や関連商品の表示などの機能も強化。使い勝手を高め、通販利用者を上積みする。立ち読みサービスはこれまで米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」と多機能携帯端末「iPad(アイパッド)」向けだけだった。



デザイン家電「アマダナ」、ソニーOB招き海外強化
 「アマダナ」ブランドのデザイン家電を企画・販売する家電ベンチャーのリアル・フリート(東京・渋谷)はソニーOBらを招いて経営体制を刷新する。海外の量販店などに広い人脈を持つ人材を迎え、販路開拓などの海外展開を加速する。家電業界の新旧世代のタッグがうまく機能すれば、業界の人材交流や家電ベンチャーの起業を後押しすることになりそうだ。
 13日にも発足する新しい経営体制では、ソニーで欧州やアジアなどの海外マーケティングに約30年従事し、ソニーマーケティング社長などを歴任した小寺圭氏が会長に就く。さらにソニー元会長の出井伸之氏が代表を務めるコンサルティング会社、クオンタムリープ(東京・千代田)のソニー出身コンサルタントも取締役に加わる。
 2002年設立のリアル・フリートはデザインに特徴のある電卓や携帯電話、冷蔵庫などの家電を企画・販売している。国内では一定の地位を獲得し、海外展開が成長への課題となっていた。新体制ではまず中国市場の攻略に乗り出す方針だ。



相続税最高税率55%に引き上げ、政府税調方針
 政府税制調査会は11日、2011年度税制改正で、相続税最高税率を現行の50%から55%に引き上げる方針を固めた。
 相続する財産額から差し引いて税金を安くする基礎控除は、定額部分を5000万円から3000万円に、相続人数に応じた加算額も1人あたり1000万円から600万円にそれぞれ縮減する。税率の区分は現在の6段階から8段階に増やす。15日にも閣議決定する税制改正大綱に盛り込む方針だ。
 政府内には、相続税増税分を11年度に3歳未満の子ども手当を上積みする財源の一部にあてる案もある。
 相続税最高税率を引き上げ、基礎控除を縮減するのは、資産を多く持つ富裕層に負担増を求め、税収増を図るためだ。約4%と極端に富裕層に偏っている課税対象件数を約6%に増やし、是正する狙いもある。



(日経社説)1台の電子端末でどんな本も読みたい
 電子書籍の端末販売や情報配信サービスが日本でも始まった。今年は「電子書籍元年」といわれ、新市場の拡大が期待できる。だが読者は購入した端末の専用サービスを使う必要があり、不便も予想される。新事業の立ち上げに際し、各社が特色を競い、顧客の囲い込みに力を入れるのは当然だが、読者の使いやすさに配慮した市場作りが必要だ。
 電子書籍サービスは出版社よりも資本力のある家電メーカーや通信会社主導で進んでいる。そのため端末と情報サービスが一体化しており、端末ごとに購入できる作品も異なる。書店なら自由に本を選べるが、電子書籍は読みたい本の種類に応じて端末を選ばなければならない。
 例えば、シャープが発売した「ガラパゴス」とソニーの「リーダー」。前者はカラー液晶と無線通信機能を持ち、新聞や雑誌などの定期刊行物の購読に向く。一方、後者は白黒の電子インク技術を使い、書籍をじっくり読むのに適している。
 端末を選ぶのは読者の自由だが、端末が違えば情報サービスも異なる。ソニーの端末で買った作品はシャープの端末では読めない。電子書籍は1台の端末に多くの情報を蓄積できるのが利点だが、雑誌と書籍を読むのに別の端末を買わなければならないのは本末転倒ともいえよう。
 メーカー各社が端末と情報サービスを一緒に提供するのは、音楽配信分野での米アップルの成功にならおうとしているためだ。しかし電子化が始まったばかりの出版分野で、色々な本を読むのに複数の端末を持たねばならないのは不便で、電子書籍自体の魅力が失われかねない。
 では日本で電子書籍市場を立ち上げるにはどうすべきか。出版物を電子化する際の書式は政府が標準化を促した。次に重要なのは配信技術の標準化だ。それにより読者が同じ端末で異なる事業者の配信サービスを利用できるようになれば、どんな作品も読めるようになる。
 著作権管理にも新たな技術が要る。シャープの端末は情報を直接受信できるが、他の端末に移して読むことは難しい。ソニーの端末もパソコンでインターネットから情報を取り込むが、パソコンの方では読めない。DVD録画機で一度しか複写できない構造が問題となった。電子書籍も様々な端末で相互利用できるようにすることが今後の課題だ。
 電子書籍が普及するためには、書店のように手軽にネットから買えるようにしなければならない。それには1台の端末でどんな本も読める仕組みづくりが必要である。