公認会計士への途

会計士不正取引 「職業倫理」忘れてないか
 監査法人最大手の新日本監査法人公認会計士インサイダー取引疑惑が発覚した。昨年退職した公認会計士が在職中に、自身がかかわった企業の非公表情報を基に株式を売買していたというのだ。
 会計士・監査法人には資本市場の番人という重い役割がある。このことは改めて指摘するまでもあるまい。
 市場の番人の不正がどんな事態を引き起こしたか。ここ数年、カネボウなどの粉飾決算への加担をはじめ、会計士をめぐる不祥事が続々と発覚、大手監査法人が解散に追い込まれた。監査法人と顧客企業の関係がなれ合いとなり、企業側の不正な要求を断り切れなくなっていた事実は「会計不信」を招き、株式市場は大きく動揺した。
 問題の会計士が資格をとった平成17年は、会計士や監査法人に対する批判が高まり、業界も信頼回復に懸命だった時期だ。状況を厳しく認識すべきなのに、まるで人ごとのように、資格取得の翌年にはインサイダー取引に手を染めていたのである。
 内部調査に対し、この会計士は平然と「他の株取引での損失を取り戻すため」と語り、知人名義の口座を使うなど偽装工作まで行っている。悪質なだけでなく、自身の職務の重要性などまったく認識していないかのようだ。
 これは、業界に1人の不心得者がいただけという問題ではない。
 企業と会計士・監査法人の信頼関係が崩れれば、企業が十分な情報を出さなくなる可能性がある。それでは適正な監査はできず、投資家は何を信用すべきかがわからなくなる。その意味で「なれ合い監査」同様の危険性をはらんでいるのだ。
 監査法人日本公認会計士協会が再発防止に努めることは重要だ。不正取引などへの課徴金を現行の約2倍に引き上げる金融商品取引法改正案が閣議決定されたことも歓迎したい。
 しかし、ここでは、業界の取り組みや法整備以上に、あえて一人一人の「職業倫理」の重さを強調したい。
 会計士やNHK記者など、人一倍自己規律が求められる職業に携わる者のインサイダー取引の発覚が続いている。これでは日本の資本市場への信頼は失われてしまう。市場への影響力を持つ者は職業倫理という言葉をもう一度かみしめる必要がある。