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「低額で定額」最強のビジネスモデル iモード10歳の肖像(COLUMN)
 NTTドコモのインターネットサービス「iモード」が始まって2月22日で丸10年。iモードの登場をきっかけに日本ではモバイルインターネットが急速に普及した。その快進撃を支えた様々なプレーヤーを通じ、iモードの過去とケータイの未来を考えてみたい。まず、iモードの強さと課題を検証する。
 今から10年前の1999年1月23日。日本経済新聞朝刊は「NTTドコモ申請 インターネット利用、携帯電話だけで可能」という見出しで、ドコモが郵政相にiモードの認可を申請したことを小さく伝えている。
 記事はわずか30行弱だが、面白い記述もある。「サービス開始に合わせ、対応した端末『デジタル・ムーバ F501iハイパー』を発売する。(中略)新型端末は富士通製で、横8文字、縦6行の計48文字を表示できる大型ディスプレーを採用……」。
 今とは隔世の感があるが、確かに99年当時の携帯電話といえば、液晶はまだ白黒で画面も小さく表示も粗かった。「携帯向けインターネットサービス」といっても想像が湧かないようで、当時の新聞では、iモードを「文字情報サービス」などと表記している記事もある。
 それから10年。iモードはインターネット、モバイルという栄枯盛衰の激しい業界で成長を続け、おそらく世界的にも例のない成功を収めた。ドコモはちょうど10周年となる2月22日、特設サイト「i-mode 10th Anniversary」をオープンする予定。記念イベントなども計画しているようだ。
■顧客、プロバイダーとのウィン―ウィン関係
 「昨年でしたら夏野(剛氏)が話す機会なんでしょうが……」。
 2月13日にNTTドコモが開催した記者説明会。阿佐美弘恭コンシューマサービス部長は30分のプレゼンテーションをこう切り出した。テーマは10周年を迎える「iモードの歴史と進化」。
 そのなかで阿佐美氏はiモード成功の最大の要因を、顧客とコンテンツプロバイダー、ドコモによる「ウィン−ウィンの関係」と説明した。ウィン−ウィン関係とは、言い換えればビジネスモデルのことだ。iモードの一番の凄さは、10年経った今も揺るがないそのビジネスモデルにあるだろう。
 iモードは、ドコモが入り口となるポータルサイトと共通のプラットフォームの提供、そして課金といった裏方に徹して、サイトの運営はコンテンツプロバイダーに任せる仕組みをとった。
 顧客は便利なサービスや好みのコンテンツを提供するサイトのプロバイダーと契約し、毎月の会費をドコモの通話料と一緒に払う。ドコモの収入は会費を徴収する手数料(会費の9%)と、顧客のデータ通信料(パケット代)。魅力のあるサイトが増えればドコモもプロバイダーも収入が増え、利用者も満足するというウィン―ウィンの関係になる。
 ザッパラスの杉山全功社長は「電話代と合わせて徴収する仕組みは小規模事業者には魅力的」と話す。まず会員が電話代を払っている限り、会費を取り損ねることがない。クレジットカードで顧客一人ひとりと契約を交わすのに比べ、入会のハードルが下がるうえ、「料金を毎月回収する事務コストも少なくて済む」ためだ。
 さらに会費を安く抑え、退会手続きをとらない限り契約が継続するという仕組みも絶妙だった。サービス開始当初のサイトの月会費は上限が300円(税抜き、以下同じ)。ドコモでiモードを立ち上げた松永真理氏が「週刊誌の値段」と強く主張したのは有名な話だが、低価格ゆえ顧客の多くが不満を持たずに会費を払い続けた。この月額会費のビジネスモデルは「海外ではほとんど見られない、日本の携帯ビジネスの特徴」(KLabの真田哲弥社長)という。
■高い利益率もたらす「幽霊会員」
 毎月の少額課金は、着信メロディーやゲームをダウンロードするごとに課金する方式に比べ、プロバイダーの収入が安定しやすい。そこから「経営が安定したプロバイダーが積極的に別のサイト開発に資金を振り向けて、新サイトを競う」(KLabの真田社長)という好循環が生まれた。
 そのエコシステムのなかで、もう一つ見逃せないのは、会費を払いながらめったにサイトを利用しない「幽霊会員」の存在だ。
 小額課金モデルはもともと幽霊会員が生まれやすい。例えば着信メロディーサイトでは300円の会費で何曲もダウンロードできる。しかしその権利を使い切るのは少数の会員だけだ。会員の規模がある程度大きくなると、サイトの運営コストはほとんど変わらず幽霊会員の会費分がそのまま利益となる。一定の損益分岐点を超えれば利益率が上がりしかも安定した収益を見込める携帯コンテンツには、多くの企業が参入した。
 iモードの公式サイト数は一貫して増え続けており、2008年末でFOMAmova向けを合わせると2万2000を超える。2001年4月時点ではまだ1700であり、7年半で13倍に増えたことになる。08年末の運営プロバイダー数は2800、利用者1人あたりページビューは1日あたり65.8に達する。
■コンテンツのジャンルは広がったが・・・
 iモードのビジネスモデルが当初からほとんど変わらない一方、10年という時代とともに変わったこともある。
 コンテンツでいえば、初期は占いやサーファーのための波情報といった文字情報が中心だったが、その後、着信メロディーから始まった音楽系、映像系へと広がっていく。業界団体モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF、東京・渋谷)の調査によると、2007年のコンテンツの種類別内訳(iモード以外も含む)は、「着うた」と「着うたフル」「着信メロディー」を合わせた音楽関連が1633億円で全体の4割近くを占める。これに、ゲームが848億円、待ち受け画面が227億円、電子書籍が221億円と続く。
 端末も進化した。小さな液晶のストレート型端末から画面がより大きい折りたたみ式端末へ、白黒液晶からカラー液晶へという進化は、iモードの誕生とともに2000年前後から始まった。液晶解像度の向上やメモリーの大容量化などと歩調を合わせ、2001年のmova503iシリーズには早くも「iアプリ」が標準搭載され、2004年には「デコメール」、2005年には「iチャネル」が始まっている。iモードの公式サイト数が急増したのは、ちょうどその前後からだ。
 ただ、iモード利用者数は同じ2004−2005年ごろから伸びが鈍化し始めている。端末の高性能化とともにコンテンツのジャンルが広がりサイト数は増えたが、iモード利用者数が頭打ちとなり、コンテンツプロバイダー間の競争が激化するという構図だ。
■会費の単価は上昇?
 では、iモード市場全体で見た場合はどうか。公式サイトの延べ利用者数や公式サイト全体の売上高の推移といったデータがないので正確な動向はつかめないが、手がかりになりそうな数字はある。
 ドコモによると、ドコモがコンテンツプロバイダーから受け取る手数料収入は、07年3月期の185億円が08年3月期には約12%増の207億円へと堅調に伸びている。つまり、1人当たりの契約サイト数が増えているのでなければ、会費単価が上がっているということだ。
 最近の人気ジャンルは動画で、この1年半ほどの間にサイト数が倍増しているが、動画サイトは月会費を400円、500円と高めに設定しているところが多い。コミックサイトも月会費は高い。
 携帯普及率はほぼ100%に達し、iモード利用者も2008年8月末で4800万人と、ドコモの契約者の89%に達している。利用者数の伸びがこれ以上見込めないなかで、iモードは単価を引き上げつつ、次の10年に向かおうとしている。その点は、ビジネスモデルをがらりと変えて混乱期へと突入した端末販売ビジネスとは対照的だ。
■勝手サイトVS公式サイト
 では、iモードは今から10年後も存続し、「20th Anniversary」を迎えることができるだろうか。
 モバイルコンテンツ市場全体の規模は2007年で4223億円と、前年に比べ16%伸びている。MCFが調査を始めた2004年から毎年10%を超える成長を続けており、2008年も従来と同じペースで拡大したと見る関係者が多い。
 ただ、ケータイコンテンツ市場が拡大する一方で、公式サイトを中心とするiモードは踊り場を迎えるという見方が根強い。通信速度が上がり、端末の画面が大きくなった結果、パソコンと同様に利用料無料で広告収入で運営する、いわゆる「勝手サイト」が増えているためだ。
 すでに、会員が1000万人を超える「モバゲータウン」や「魔法のiらんど」など多くの会員を抱えるサイトが登場している。勝手サイトと公式サイトの閲覧回数は2004年6月に勝手サイトが公式サイトを逆転し、この1年間はおおむね6対4の割合での推移が続く。
 ドコモの阿佐美氏もiモード関連では「今後は収入の伸びが鈍化することは避けられない」と認める。「携帯ユーザーの財布の中身は有限」(阿佐美氏)であり、伸ばす余地にも限りがあるからだ。
 利用者の選択肢を広げ収益を拡大するため、ドコモは徐々に課金ルールを緩和してきた。当初300円だった会費の上限は今では2000円。さらに電子書籍音楽配信など、ダウンロードごとに課金する手法も取り入れている。コンテンツプロバイダーの反対などにより「見送る方向」(阿佐美氏)となったが、サイトの掲載順を決めるのに入札を取り入れる方針を示したこともある。
 今のところ、不況により携帯サイトに広告を出稿する「新規のナショナルクライアントが増えてはいない」(ディー・エヌ・エー南場智子社長)こともあり、勝手サイトの勢いはさほどではない。ただ「公式サイトはなくならないが、徐々に勝手サイトにシフトする」(ザッパラスの杉山社長)というのが業界関係者に共通する見方だ。
 世界の携帯業界では、アップルの「App Store」やグーグルの「Android Market」といった新たなコンテンツ販売プラットフォームも台頭している。それらがキャリアに代わり課金を担っていく可能性もある。
 10歳を迎えたiモードは、未知の課題に立ち向かうことになる。