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日本のアニメが世界に「売れない」 生き残りの道は (COLUMN1)
 日本のアニメが世界で熱狂的に受け入れられる――そんな時代が、過去の物になりつつあるようだ。
 「2010年以降、日本アニメの世界市場は縮小する」と、テレ東アニメ事業部長の経験もある岩田圭介さんは予測する。日本アニメは世界市場ですでに「飽和状態」で、成長の余地が見えないという。
 世界同時不況やネットの違法配信の影響などで、北米市場は「ぼろぼろ」、欧州市場も厳しく、中東やアジアなど新市場も期待薄。「このままでは、日本のアニメを日本の市場だけで売る一昔前に戻るかもしれない」ほど事態は深刻だ。
 逆風下での生き残りをかけてテレ東は、米国の動画投稿サイトでアニメを配信するなど、新たな取り組みを進めている。
「こんなものでも買うんだ、という作品も売れていた」が……
 日本アニメの海外進出は、「新世紀エヴァンゲリオン」(1996〜97年)を機に急拡大したという。それまでは「金髪のジェニー」や「ムーミン」といった、海外を舞台にした“無国籍アニメ”が受け入れられていたが、エヴァは日本のアニメとして歓迎され、市場を一気に広げた。
 97年ごろから「ポケットモンスター」が海外でメジャー作品化。02年には「遊戯王」がさらに市場を拡大し、日本のアニメは売り手市場に。「こんなものでも買うんだ、と思うようなアニメがセットで売れていった」。02年以降、「NARUTO」も世界的にヒットし、海外のティーンエイジャーや「OTAKU」層の心をとらえた。
 その後は「ケロロ軍曹」「ブルードラゴン」といったタイトルが海外展開を開始・準備しており、09年までは、NARUTOまでの作品が広げてきた海外ファンからのニーズを、複数のタイトルで支えている状況が続くと岩田さんはみる。
 だが市場はすでに飽和状態。「10年以降、世界市場が縮小するというシナリオが、容易に想像できる」
 市場の飽和に加え、世界同時不況や各国の事情、動画共有サイトの違法配信が、日本アニメ輸出に暗い影を落としている。
アニメ輸出、米国も欧州もアジアも厳しい
 アニメ業界も、世界同時不況の波をかぶっている。輸出産業として円高の影響を受けている上、最大の輸出市場だった米国や欧州も不況のまっただ中だ。
 市場環境の厳しさに加え、米国では、地上波放送で日本アニメの視聴率が低迷。地上波放送局は、日本アニメの暴力的な内容や、グッズ販売を前提にした構成を嫌い始め、アニメへのニーズ自体が低下しているという。
 日本のアニメ配給を手掛けてきた米国の「4Kids TV」は、FOXテレビのアニメ枠から撤退。アニメ専門チャンネルCartoon Network」も一時日本アニメから全面撤退した。Cartoon Networkは、「オタク向けの『Adult Swim』(14歳以上限定)で一部復活した」が、ポケモンNARUTOレベルのヒットは望めない状況だ。DVD市場も厳しく、「全米で400本しか売れないタイトルもあった」という。
 欧州も状況は厳しい。もともと自国文化の育成に力を入れている国が多く、海外アニメを放送できる枠が少ない中で、「買ったものの放送できず、手つかずのタイトルが山のように残っている。新しい物がいらない状況」。言語や文化のギャップも大きいという。
 さらに、違法配信サイトや動画共有サイトの台頭が、地上波テレビを中心としたアニメのビジネスモデルを破壊。「日本でアニメを放送された翌日には、現地語の字幕を付けてネットにアップされてしまう」ため、日本で放送終了した作品を海外に販売するころには、海外ファンはすでにそのアニメを見ており、視聴率が取れなくなる。「成功の方程式――テレビメディアのビジネスモデルが崩れた」
 国内でも、アニメが置かれた状況は厳しい。日本動画協会の発表によると、国内アニメ産業の総売上高(海外販売も含む)は06年がピークで、07年には前年を割った。
 「アニメ業界にはマイナス要素の方あまりにも多すぎる」と岩田さんは指摘する。マイナス要素とは、(1)地上波テレビが不況に入った(日本民間放送連盟加盟127社のうち、約4割の55社が08年9月期経常赤字に)、(2)アニメは視聴率が取れないため「キー局でゴールデンタイムに放送するのは不可能」、(3)アニメ単体でヒットする作品がない――など。アニメの制作本数も激減している。
 プラス要素として唯一挙げたのは、アニメを流すメディアが多様化していることだ。BSやCS、地上波デジタルなどで多チャンネル化が進んでいるほか、ネット配信や携帯電話向け配信も盛ん。「ニンテンドーDS」や「Wii」「プレイステーション 3」などゲーム機向けにもネット配信できる環境が整っている。
 「危機はチャンス」――テレビ東京は今後もアニメを積極展開する方針で、ネットを活用した新たなビジネスにチャレンジしている。
 1月から、米国のアニメ専門動画共有サイト「Crunchyroll」で、「NARUTO」「銀魂」など「テレビ東京の最強コンテンツ」を、日本での放送の1時間後に有料配信。月額7ドルで、会員数は1万人を超えたという。日本のアニメチャンネル「AT-X」(月額1575円、4月から1890円に値上げ)の会員数は「10年かけて10万人になった」というから、1カ月弱で1万人を達成した意味は大きい。
 日本では、地上波テレビのビジネスモデルがまだある程度健在とみており、国内でのアニメのネット配信には慎重だ。それでも「需給バランスは崩れ、枠が余っている。タカビーで敷居が高いテレビではやっていけない」。状況を悲観するのではなくチャンスととらえ、ほかの媒体と連携しながら新しいビジネスモデルを築いていく考えだ。



「テクニカルアーティスト」というゲーム開発の新職種 GDCを読む(COLUMN2)
 米サンフランシスコで3月23〜27日に開催される「ゲーム開発者会議(GDC)」関連の発表が増えてきた。昨年のGDCの参加者数は1万8000人を超え、5日間で400あまりの講演やパネルディスカッションが開かれた。世界のゲーム産業の情報が集まる場として、その影響力は年々増している。今回は、予定されている講演概要を通じて見えてくる欧米のゲーム開発のトレンドを紹介しよう。
■グラフィック職ではない「アーティスト」?
 日本人開発者の間で、「テクニカルアーティスト(technical artist)」という職種の定義について混乱が起きている。この職種名は、英語で書かれた開発関連の文書でこのところよく見かけるようになり、今年のGDCでも関連するセッションが10あまり予定されている。しかし、日本では職種が確立されていないため、一見して技術に通じたグラフィック職(アーティスト)と思ってしまう人もいるようだ。
 テクノロジーを駆使した「メディアアーティスト」のことを指すような響きもあるが、まったく違う。現状、的確な日本語訳はない。
 テクニカルアーティストとは、ここ数年で重要度を増してきたプログラマーの新しい職種のことだ。明確な定義は英語でも存在していないのだが、グラフィック職を支援するためのプログラム職で、ゲームを開発するうえでどの技術を採用するかを考え、グラフィックスについての開発のパイプライン(データの流れ)を設計し、それにあわせてグラフィック職の仕事のワークフロー(手順)を作り上げるという職種であるようだ。
 そのため、先端技術に通じている必要があり、また現在のハードウエア性能でそれらの技術がどの程度実現できるのか、そして複雑化するツール類の何を使って生産性を上げるのかという具体的な判断ができる高度なスキルや知識が求められる。
 「プレイステーション3(PS3)」や「Xbox360」のような最新ハードウエアは、グラフィック処理性能が高い。とはいっても、その性能が無限に引き上がったというわけでもない。
 そこで、ゲーム表現を効果的に見せるためには、アーティストが表現したいこととそれに必要な要素を考え、そこから何を選んで何を捨て、どのような設計に基づいて開発を進めるかを選択することがますます重要になる。
 さらに、テクニカルアーティストは、PS3とXbox360の2つのプラットフォームで展開するために、どの技術を採用すればいいかといった知識も求められる。グラフィック職は、ハードウエアの能力を活用してできるだけ美しい画像を描き出せるようにしたいと思っているものの、プログラム的な知識を持っていない。それを技術面で助けるという立場になる。
■急激に広がるテクニカルアーティスト職
 この職種のルーツは、映画業界の「テクニカルディレクター」にあるようだ。ピクサーなどCG映画を制作する会社では、その時代のコンピューター性能やグラフィックス技術の範囲内で、何を採用して映画を作るかを判断するテクニカルディレクターという職種がある。
 ただし、映画は完成した動画をそのまま再生する非リアルタイム処理であり、ユーザーの入力にしたがってリアルタイム処理で動画を生成するゲーム業界とは技術的に求められるものが異なる。ゲーム産業では、単にテクニカルディレクターという名称に収めることができなくなった。
 そこで、数ある技術要素のなかでもグラフィックだけに集中するテクニカルアーティストという職種が発生してきたというのが歴史的な経緯であるようだ。しかし、その職種の責任者は「テクニカルアートディレクター」と呼ぶようなので、ややこしい。
■5年前に会社を説得することから始まった職種
 この職種が生まれる過程を理解するうえで、興味深い発言がある。アクションゲーム「セインツロウSaints Row)」の開発会社として知られる米Volitionが、同社のテクニカルアーティストであるジュフ・ウォーカー氏のインタビューを昨年12月に同社サイトに掲載している。
 そこでは、「最大の挑戦だったのが、テクニカルアーティストの必要性を会社に説得することだった。5年前でさえ、会社はテクニカルアーティストの必要性について納得していなかったので、説得し続けた」と述べられている。その後、会社は劇的に考えを変えてくれたという。
 セインツロウは、「グランドセフトオート」と同じように、仮想の都市でプレーヤーが自由にインタラクティブを楽しむといったスタイルのゲームだ。「オープンワールド型」と呼んだりもする。
 このタイプのゲームは、データを動的に読み込みながら広い空間を表示するため、初期段階でかなり厳密にグラフィックの仕様を設計する必要性がある。その設計が悪いと、ゲーム中にフレームレート(1秒間あたりの画像枚数)が低下するなど、グラフィッククオリティーの劣化が表面化する。
 ウォーカー氏が、テクニカルアーティストという職種の必要性を会社側に訴えた背景には、テクニカルアーティストの働きがそういったゲームのクオリティーに直結するという事情があったためと思われる。
■今後、日本でも認知が広がる
 テクニカルアーティストは、欧米圏ではグラフィック職を支援するための専門職として確立しつつある。特に大規模化するプロジェクトでは、この職種次第でゲームのクオリティーが決まるほどになろうとしている。
 昨年8月に米Gamasutra誌に掲載された記事「コードとアートの分断:どのようにテクニカルアーティストはギャップに橋をかけるか」では、大雑把に言って80−90人の開発チームには「3人から4人のテクニカルアーティストが必要であることがわかった」と書かれている。
 もちろん日本でも、似たような職種は、テクニカルアーティストという呼称ではないにしても、大規模プロジェクトの大半ですでに存在している。ただ、グラフィック職への協力に力点が置かれたプログラム職の必要性は、それほど強く認識されているとまでは聞かない。Volitionのウォーカー氏が5年前に置かれた状況に近い企業も多いと思われる。
 ただ、欧米企業でもここ数年急速に広がったように、メリットが見えやすい職種ではある。概念が一度理解できれば、日本の開発現場でもテクニカルアーティストとしてのノウハウの吸収と定着が早く進むかもしれないと思っている。