Fw: 公認会計士への途

企業は内部統制の充実で信頼を高めよ
 上場企業の決算書類の信頼性を高めるために新しい仕組みが、4月からスタートする。金融商品取引法に基づく「内部統制」のルールだ。
 業務を適正に進めるための管理体制である内部統制は、なぜ必要なのか。極端な例だが、原材料の購買担当者と代金の支払い担当者が同一人物だったら、着服などの不正が起こりやすいだろう。取引と記録の担当者を分け、伝票を複数の社員がチェックしてこそ不正やミスは発生しにくくなる。こうした業務手続きを文書として定め、各職場に浸透させることが内部統制の基本である。
上場企業に報告義務
 上場企業には2008年度から、グループ会社を含めて内部統制が適用される。決算で多額の粉飾が生じる恐れがないかなどを自己評価した報告書を作り、財務諸表と一緒に監査法人の監査を受けなければならない。報告書に重大な虚偽記載があった場合、経営者には5年以下の懲役または500万円以下の罰金などの罰則規定がある。
 米国ではエンロンワールドコムによる巨額の不正会計事件が起きたのを受け、02年に企業改革法が成立し、内部統制が大幅に強化された。日本でも04年以降、西武鉄道の株主偽装やカネボウ粉飾決算が発覚し、米企業改革法を参考にして金商法で内部統制が規定された。
 内部統制の「元年」を迎える今、企業にとって三つの大きな課題がある。第一は、上場企業に対する投資家の信頼を確保することだ。企業の財務報告に重大なウソがあると、投資家は企業経営の中身が信用できなくなり、ひいては株式市場全体の信頼が揺らぎかねない。
 金商法が求めるのは財務報告の信頼性だが、それに対応するだけの受け身の姿勢では不十分だ。商品である食品の表示偽装など会計以外の不祥事も多発している。経営者をチェックする企業統治コーポレートガバナンス)も含め、広い視野で会社の体制を見直す必要がある。
 内部統制の分厚い文書をつくっても、経営トップが不正を隠ぺいするようでは、あまり意味がない。例えば、昨年、建材の耐火性能を偽装していたことが明るみに出たニチアス。前社長は偽装を知りながら1年間も隠していた。トップに情報公開を促し、決断させる人物が社内にいなかったという点で、企業統治にもかかわる問題といえる。
 経営者の言いなりにならない人物を社外取締役や社外監査役にし、彼らに内部統制の情報を伝えて、経営者の隠ぺいを許さない体制をつくることが、まずもって大切だ。
 第二に、形式主義に陥らない運用が求められる。監査法人のチェックを受けるために内部統制の文書をつくる作業は必要だが、文書を作成することそれ自体が内部統制の目的なのではない。いくら業務規定を細かく定めても、社員がそれを守っていなかったら意味がない。
 内部統制のスタートを前に、企業の事務負担はかなり重くなっている。書店には解説書がずらりと並び、会計やIT(情報技術)のコンサルタントも“内部統制特需”にわいている。米国で株式を上場しているため、米企業改革法に対応した三井物産の場合、コンサルティング料など社外に支払った費用だけで20億―30億円に達したという。コンサル料の相場はうなぎ登りで、繁忙を理由にコンサルタントから助言を断られる企業も出ている。
 細かすぎる規定がかえって業務の効率を低下させる恐れもある。不正を防ぐためにはどの程度細かく規定をつくる必要があるのか。企業と監査法人が試行錯誤しながら見極めていく必要があるだろう。仕事の流れを洗い直し、ムダな業務を省く工夫も必要になる。
トップは優先順位示せ
 最後に、経営者の姿勢が問われる。偽装や隠ぺいが後を絶たないのは、経営者が不正を隠し通せると考えるからだ。だが内部告発で不正が露見する例が増えている。
 かつては内部告発をためらう社員が多かった。雇用の流動化や非正規社員の増加などで、会社への忠誠心は大きく変化している。悪事に目をつぶりたくないと考える人が増えており、経営者は不正を隠しおおせる時代ではないと認識すべきだ。
 経営者はまず守るべきものの優先順位を、役員や社員に明確に示す必要がある。02年には牛肉偽装事件の発覚で雪印食品が解散に追い込まれた。今年1月には名門料亭の船場吉兆民事再生法の適用を申請する羽目に陥った。不正によって目先の利益を得ても、発覚すれば経営破綻に至るほどの損失が出る時代だ。
 ルールを守ることが長期的な利益につながる。経営者はこの基本を肝に銘じ、自社の規律を高めて株主など利害関係者、ひいては社会の信頼を確保する努力をすべきだ。内部統制元年の課題である。