「48時間以内にゲームを1本作る」イベントの狙い

「48時間以内にゲームを1本作る」イベントの狙い
 「48時間以内にお題に合わせてゲームを1本作れ」――。こんなイベントが、国際ゲーム開発者協会(IGDA)の主催で2011年1月末に開催される。今回が3回目。日本からも東京工科大学が中心となり、国の支援を受けて参加の準備を進めている。この「Global Game Jam(GGJ)」というイベントにはどんな狙いがあるのか。
 来年1月28〜30日に開催されるGGJは、3日間のうち48時間を使って何らかのゲームを1本完成させるという世界同時開催イベントだ。出場条件は特になく、インターネットを利用して世界から自由に参加することができる。今年1月に開催されたGGJには、世界139地域から4000人以上が参加し、900以上のゲームが開発された。完成したゲームはイベント終了後にGGJのサイトにアップロードされ、お互いに成果を評価し合う。
プロの開発者も参加
 参加者は回を重ねるごとに増えており、ゲーム関係の講座を持つ大学のほか、海外の大手スタジオで働くプロのゲーム開発者も数多く出場している。それはこのイベントが、ゲーム開発の世界に近年浸透し始めた「ラピッドプロトタイピング」という新しい考え方を実践する格好の場になっているためだ。
 48時間という短い制限時間で、1本のゲームを作り上げるのは容易ではない。開発者のスキルを測ったうえで、作ることができるゲームの企画と仕様を決め、それなりに遊べるゲームにしなければならない。
 そのために、「アジャイルソフトウエア開発手法」と呼ばれる方法を使う。これは、計画から要件定義、設計、実装(コーディング)、テストまでの一連のソフト開発の流れを1週間から1カ月程度の短期間で行う方法だ。その開発結果をすぐに評価して改善するプロセスを繰り返すことで短期間にソフトの質を高めることができる。
 また、アイデアの質を検証するのも容易になり、あまりよくないアイデアであれば積極的に捨てて、別のアイデアを同じような短期間で開発して試すことができる。欧米圏のゲーム開発では、この5年あまりの間に小さな独立系企業と大規模プロジェクトの両方で一気に普及しつつある。
 GGJは、この手法に48時間という極端な時間制限を付けることで、開発者の技能をギリギリまで引き出そうとしている。プロにとっては、絶好の腕試しの機会というわけである。
ラピッドプロトタイピングを実践教育
 このイベントを目標にした実験的な教育プログラムが日本で進んでいる。東京工科大学を中心とした「ゲーム産業における実践的OJT/OFF―JT体感型教育プログラム」というプロジェクトで、文部科学省が今年度予算で公募した「産学連携による実践型人材育成事業 専門人材の基盤的教育推進プログラム」という助成事業に選ばれた。
 このプロジェクトは産業界と大学などの高等教育機関が連携してゲーム産業に通用する人材を育成することを目的としており、最終目標を来年1月のGGJ参加に置いて、ラピッドプロトタイピングの実践教育を行っている。
 9月から始まった授業では、参加した約30人の学生が5〜7人程度のチーム5つに分かれて、開発に取り組む。各チームは個々のメンバーの作業時間を48時間以内に収めるという前提で時間配分の計画表をまとめ、1カ月かけて共同で1本のゲームを開発する。これを3回繰り返して、GGJの本番に挑むことになる。
 日本でゲームのコースを持つ大学や専門学校は、卒業制作となるゲームを1年がかりで開発して企業にアピールするというパターンが一般的だ。講義でラピッドプロトタイピングを中心に据えるのは日本で初めてだろう。
1回目の発表結果は?
 その1回目の発表が、11月25日に行われた。お題は「Fight、Flight、Float」で、そのうち1つのテーマを入れなければならない。
 発表した5チームは、何とかプログラムとして動くものをそれぞれ開発した。ただ、あるものはゲームとして完成しておらず、あるものは完成度の高さの片鱗が見えるというようにバラエティーに富む結果になった。
 「人力飛行」というゲームは、アナログコントローラーをぐるぐる回すといったトリッキーな操作で、ビルの間を飛ぶグライダーを上昇させたり左右に移動させたりしてゴールを目指すゲームだ。「鳥人間コンテスト」の自転車漕ぎで飛ぶグライダーをイメージしたという。
 このチームの予想製作時間は10時間だったが、40時間かけても完全には仕上がらなかった。本来は、ビルのほかに海と山の3面を予定していたが、1面を作るのがやっとで、スコアの表示機能などいくつかの要素が抜け落ちた。三次元空間を表示するためのライブラリプログラムを自分たちで製作しようとして時間がかかりすぎたのが失敗の理由だった。
 もっとも完成度が高いと思われた「ささおぶね」というゲームは、運河の水路の仕組みをパズルゲーム風にしたものだ。水門で水の高低差をうまく使い、笹舟をゴールへと導いていく。全部で50ステージを用意するなど、パズルゲームとしての幅も広い。その半面、32時間という予想時間はまったく守れず、60時間以上かかった。時間制限という点では、やはり失敗である。
 「FlyingFish」は、二次元のシンプルなゲームだ。操作も簡単で、強制的に右スクロールしていくステージ内で、マウスをクリックするとトビウオが上昇し、離すと落ちる。他の魚や船などの障害物に衝突しないようにステージを進むにつれて、スクロールの速度がどんどん上がっていく。
 このチームは、計画した32時間で確実に完成させることを最優先し、時間目標は達成できたという。しかし、同じようなコンセプトのゲームはたくさんあり、新規性やゲームの面白さという意味で、修正した方がよいと思われる点もいくつか感じられた。
 開発チームの一人、大学院生のチャン・ネケスさんは、「最初の仕様を決めるまでにかなり時間がかかり、実装の余裕がなくなった」という。また、計画では、1日何時間を使うという形で予定を立てたが、「実際はまとまった時間が取りにくく細切れになってしまい、それも作業を進めるうえで障害になった」と述べていた。
「あえて失敗してほしいと思っていた」
 発表を見て印象に残ったのは、どのチームも数々の「失敗」を経験し、反省点を抱えたという点だ。プロジェクトをまとめている東京工科大学メディア学部専任講師の三上浩司氏は、「今回は意図的にあまり助言をせず、あえて失敗してほしいと思っていた」と語る。
 東京大学名誉教授の畑村洋太郎氏は「失敗学のすすめ」(講談社)で、「教育現場で真に求められているのは、正しい知識の伝達もさることながら、失敗を怖れずに伝えるべき知識を体感・実感させることであり、本当の意味で身について使える知識は、そうした体感・実感なしにはマスターできない」と書いている。
 ラピッドプロトタイピングを使えば、この畑村氏の考えに近い状態をゲーム開発のトレーニングに意図的に導入できる。実践と小さな失敗の積み重ねが成長の糧になるだろう。学生にとっては大変な授業だが、GGJが終了するころには手応えを感じられるのではないか。



日産、九州を主力工場に 国内再編に着手
コスト削減でアジアに対抗
 日産自動車は九州工場(福岡県苅田町)を主力拠点にすることを柱とした国内生産の再編に着手する。中大型車の輸出拠点の九州で3年以内に小型車の組み立てを始め、国内生産の過半を集中。アジア製部品の調達拡大などで製造原価も3割下げ、年100万台の国内生産を維持する。ホンダも埼玉県の新工場を環境車の拠点にする方針。自動車大手は海外生産を拡大しつつ、国内でも生産体制の見直しで競争力を維持する。
 日産の主力拠点には九州のほか追浜工場(神奈川県横須賀市)と栃木工場(栃木県上三川町)がある。九州では多目的スポーツ車(SUV)「エクストレイル」などの中大型車、追浜では小型車、栃木では高級車を中心に生産。「1ドル=80円台前半の為替水準では国内生産は立ちゆかなくなる」(志賀俊之最高執行責任者=COO)とみて、アジアからの部品輸送コストが安い九州工場の生産比率を高める。
 同工場へはこのほど、主力ミニバン「セレナ」の生産を子会社の日産車体の湘南工場(神奈川県平塚市)から移管。さらに小型車の生産を追浜工場から段階的に移す方針で「ノート」などが候補に挙がっている。小型車の輸出も視野に入れる。
 九州工場では2012年度までに09年度比3割の原価低減を目指す。部品購買額は年間2500億円規模で、韓国や中国、タイなどアジア地域からの調達を増やし、海外比率を現在の2倍にあたる4割前後に高める。約3割を占める関東地域からの調達は縮小し、輸送コストを低減する。
 日産の九州拠点では日産本体の工場に加え、日産車体九州(福岡県苅田町)が今年1月に同じ敷地で工場を稼働させた。本社工場の09年度生産量は追浜と並び国内生産の4割程度。12年度には九州2工場合計で5割強に増やす。本社九州工場の分社も検討している。
 追浜工場は主に電気自動車、栃木工場は高級車の拠点として残す。日産の国内生産は今年度114万台を計画。タイで主力小型車「マーチ」の生産を始めたが、生産技術の向上や雇用維持のためには「100万台規模の国内生産を死守する必要がある」(志賀COO)という。
 1990年に1300万台超だった国内自動車生産はここ数年1000万台程度で推移。さらに減少が続けば、部品や素材などを含めた国内製造業の雇用吸収力は弱まる。ホンダも13年をめどに建設する埼玉県寄居町の新工場をハイブリッド車の拠点とする一方、生産車種を絞りこむなどの国内の再編を実施する。



【産経主張】中井氏の非礼発言 問われる民主党の皇室観
 先月末の議会開設120年記念式典で、民主党中井洽(ひろし)衆院予算委員長が来賓の秋篠宮ご夫妻に「早く座れよ。こっちも座れないじゃないか」と発言していたことが分かった。皇室に対して極めて非礼である。
 天皇、皇后両陛下のご入場までの約5分間、秋篠宮ご夫妻は起立して待たれ、国会議員も立っていたときの出来事である。中井氏の発言は大声ではなかったが、周囲に響き渡ったという。
 中井氏は「早く座らないと誰も座れないよ、と言ったかもしれないが、秋篠宮さまに向けて言うはずがない。副議長らに言った」と釈明した。たとえそうであったにせよ、問題に変わりはない。
 式典は、明治23(1890)年の第1回帝国議会から120年を迎えたことを記念する厳粛な儀式だ。両陛下が来場されるまでは全員が起立し、威儀を正して待つのが礼儀である。
 秋篠宮ご夫妻への不満は、天皇、皇后両陛下への礼を失したものでもある。中井氏の発言の責任はそれだけ重大だ。
 自民党など野党は衆院に中井氏の懲罰動議を提出した。当然である。議院運営委員会の理事会では、中井氏が「お騒がせして大変申し訳ない」と陳謝したことも伝えられた。
 中井氏の発言は複数の議員が聞いている。西岡武夫参院議長も事実関係を調査する意向を示している。与野党とも、安易な妥協で済まさずに調査を続行すべきだ。
 民主党政権になってから、皇室に対する敬意を疑われるような言動が目立つ。
 昨年暮れ、習近平・中国国家副主席が来日した際、当時の鳩山由紀夫内閣天皇に会見を求める中国側の要望を一方的に受け入れ、「1カ月前までに会見申請をしなければならない」とするルールを無視して、強引に天皇と習氏の特例会見を設定させた。
 しかも、当時の小沢一郎・党幹事長は「陛下にお伺いすれば(習氏との会見を)喜んでやってくださると思う」と述べ、天皇のご意向を勝手に忖度(そんたく)した。
 また、岡田克也現幹事長は外相だった昨年10月の閣僚懇談会で、国会開会式での天皇のお言葉に注文をつけた。
 民主党政権は、天皇の政治利用を慎むとともに、両陛下と皇族に敬意を払うべきだ。