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出会い系規制でSNSを標的にする「ボタンの掛け違い」(COLUMN1)
 4月2日、ミクシィやグリー、モバゲータウンといったSNSサイトを運営する6社に対して警視庁が異例の削除要請を行い、すでにミクシィが300以上のコミュニティーを削除したと報道された。いくつかのコミュニティーでの書き込みが、出会い系サイト規制法に違反する異性の出会いを仲介するものと判断されたとみられる。
 関係者によると今回の警視庁からの削除要請は、実際に会う目的だけでなくネット上で交流を求める書き込みまでが削除要請の対象となったという。規制されるべき書き込みの定義について事業者との間で認識に齟齬(そご)があったとされる。
■「健全サイト」にも削除要請
 出会い系サイト規制法は以前から、サイト運営事業者がビジネスとして異性間の出会いを仲介している場合に限らず、結果として仲介していれば規制対象になるとの解釈基準が示されてきた。約款で異性と実際に出会うことを禁止している場合でも、書き込みを知りながら放置していると規制対象になる場合があるという。さらに昨年12月施行の改正で届出義務や年齢確認義務が盛り込まれ、出会い系サイトと認定され得るにも関わらず、届け出ていない場合や、厳しい年齢確認を課していない場合は法律違反となった。
 今回、削除要請を受けた事業者のいくつかは、モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)の認定を受けた「健全サイト」としてフィルタリング対象から除外されており、未成年に対してもサービスを提供している。約300のコミュニティーを削除したと報道されているミクシィはコミュニティー機能の提供を18歳以上に限っているが、実際には虚偽の年齢で多くの未成年が利用していると指摘されていた。未成年にもサービスを提供する「健全サイト」で男女の出会いに関係する書き込みが数多く発見されたことを指して読売新聞は「健全サイト、実は不健全」と批判している。
 事業者としては自社のサービスが出会い系サイトとみなされ、未成年の利用が禁止されて厳しい本人確認義務を課されると大きな痛手となる。そのため警視庁からの削除依頼を受けて、約款違反のコミュニティーを削除するなど対応に迫られたのだろう。
■買春の舞台は出会い系サイト「以外」へ
 警察がSNS等のコミュニティーサイトに対する監視の目を強める背景として、児童買春の舞台がいわゆる出会い系サイトからSNSや「プロフ」など「出会い系サイト以外」に移りつつある状況がある。
 青少年インターネット利用環境整備法が4月1日から施行され、保護者が解除しない限りは18歳未満の児童の携帯電話にはフィルタリングがかけられる。しかしトラブルが起きているサイトのなかには、EMAから健全サイトと認定されてフィルタリングの対象外となっているサイトも含まれる。出会いを求める書き込みの削除が昨年末から段階的に行われたにも関わらず、青少年インターネット利用環境整備法の施行に合わせたかのように、削除要請の件が派手に報じられたのには違和感が残る。
ソーシャルメディア全てが「出会い系」?
 携帯電話を使った児童買春の被害を防ぐことが重要であることはいうまでもないが、現行の出会い系サイト規制法が対象とするサイトの定義はあまりに広い。この基準を杓子定規に当てはめると、「ミニブログ」のTwitterSNSFacebookネットワークゲームなど、ここ数年で急速に発展したソーシャルメディアのほとんどが「出会い系サイト」に該当してしまう。確かにこれらのサイトを通じて出会った男女は少なからずいるだろうが、全てに届出義務や年齢確認義務を課す必要があるのだろうか。
 出会い系サイト規制法違反と判断される情報の範囲に法律上の定義はなく、いまのところ違法情報にも有害情報にも当たらないため、利用者による出会いを求める書き込みについて通報を受けたとしても事業者は対応が難しい。この法律には域外規定がなく、国外にサーバーを置く海外の事業者は規制の対象とならない。
 いまのところ児童買春の舞台が国内事業者に集中しているのは、被害にあった児童の9割超が携帯電話からサイトにアクセスしており、海外サービスの多くが日本の携帯電話に対応していないからだと考えられる。しかし携帯電話のプラットフォーム共通化が進めば、日本の携帯電話から海外のサイトにアクセスするのが容易になるという別の問題も予想される。
 今後はゲームやコミュニティーサイトだけでなく、テレビや音楽プレーヤーといった家電でも利用者間インタラクションが重要となる。クラウド・コンピューティングなどのサービスが充実したことで、サーバーを海外に置くことの敷居は非常に低くなった。利用者が海外のサービスに流出し、事業者も海外を拠点にすれば法執行が難しくなることも考えられる。日本国内の事業者だけを曖昧な法律で厳しく締め付けても、長期的には日本の国際競争力を削ぐだけということになりかねない。
■大人同士への規制は行き過ぎ
 最初のボタンの掛け違いは「出会い系サイト」の隠語である「出会い」を杓子定規に捉え、性的関係を必ずしも目的としないネット上での出会いまで幅広く網をかけてしまった点にある。児童買春の被害を防ぐことは重要だし、トラブルが絶えないとされるサイトが健全を標榜し、フィルタリングの対象から外されていることには、子を持つ親として違和感もあるが、コミュニティーを通じた大人同士の人脈形成まで一律に規制する対応は行き過ぎではないか。出会い系サイト規制法で取り締まるのは、手っ取り早い性的関係を目的とした出会いを仲介するサイトの運営者に限定すべきだろう。
■過剰な削除要請は表現の自由を危うくする
 そういった意味で今回の警視庁による削除要請は例外的な動きだが、悪用する書き込みを行った人物を摘発していない点で抜本的な解決になっていない。そもそも警察が違法でも有害でもない情報について事業者に対して削除要請を行い、数多くの出会いやオフ会を目的とするコミュニティーを削除させたとすれば「表現の自由」「結社の自由」「集会の自由」等を保障する憲法に違反する疑義もある。
 出会いを求める書き込みを放置することが出会い系サイト規制法違反に当たることを警察から事業者に警告し、事業者が約款違反を理由に自主的に書き込みを削除したとすれば法的体裁は整う。だが、新聞各社は警視庁が各事業者に対して書き込みの削除要請を行ったと報じている。それが事実だとすれば、表現の自由を重んじる報道機関が、警視庁からサイト運営者への削除要請を無批判に報じていることも理解に苦しむところだ。
 児童の犯罪被害を防ぐには、ネットを悪用した児童誘引などの手口を法律で禁じ、児童を標的とする犯罪者を取り締まるべきだ。例えば児童買春を防止するのであれば、出会い系サイトに限らず、面識のない未成年を誘引する書き込み、児童買春を誘引する書き込み、ペアレンタルコントロールを回避するために虚偽年齢でサイトに登録する行為を法律で禁止し、発信者情報開示のための手続き簡素化など摘発強化へ向けた枠組みを考えてはどうか。
 サイト運営者の対応すべき範囲が明確となり、現場も運用で対応できれば、迅速に犯罪を誘引する書き込みを削除して発信者を通報、摘発に結び付けられる可能性がある。問題視すべきネットの悪用を定義しないまま、サイト運営者に対する締め付けばかり強めても、善意の利用者が窮屈な思いをするばかりで問題は解決しない。



世界的ケインズ政策 成否の鍵は日本に(COLUMN2)
 ≪IMF「実験」の狙い≫
 国際通貨基金IMF、本部ワシントン)はケインズ政策を史上初めて世界規模で実験しようとしている。失敗すれば世界は経済の羅針盤を失い、漂流しかねない。IMFは先週、2009年の世界経済の実質成長率見通しをマイナス1・3%と発表した。執拗(しつよう)に経済見通しの下方修正を重ね、「今年後半からの景気底打ち」など一部で出始めていた楽観ムードに冷水を浴びせた。狙いはケインズ理論に基づく各国の大規模な財政出動で、2010年も継続を勧告する。
 戦後の国際通貨金融体制の要であるIMFは発足以来、ときの米政権の強い影響下に置かれてきた。1997年のアジア通貨危機で、IMFは緊急支援と引き換えにアジア各国に緊縮財政を強要した。当時のクリントン政権ウォール街の利害を代表するR・ルービン財務長官はIMFを通じて、財政支出拡大で不況脱出を試みるタイ、インドネシア、韓国などアジア各国政府を押さえ込んだ。
 財政重視は英国のJ・M・ケインズ卿の、市場重視は米国のM・フリードマン教授の理論に基づいている。米国は80年代のレーガン政権がそれまでの主流だったケインズ主義を「大きな政府」として葬った。以来、歴代政権は市場機能にまかせる「小さな政府」路線をとってきた。野放図な金融商品の粗製乱造が作り出した天文学的な規模のバブルと、その崩壊により引き起こされた未曾有の金融危機市場原理主義のなれの果てだった。危機勃発(ぼっぱつ)後でも、レーガン路線を踏襲するブッシュ前政権は市場優先主義の立場に立ち、思い切った財政出動をためらった。
 ≪大転換のかじ切った米政権≫
 1月に発足したオバマ政権の内外には、ケインズ主義者がひしめいている。主役がL・サマーズ国家経済会議議長であり、政権は一挙に大転換のかじを切った。財政赤字を省みない、政府主導による景気刺激策である。IMFは手のひらを返して、さっさとケインズ主義に転換した。
 IMFの姉妹機関である世界銀行も同調し、R・ゼーリック総裁は先のロンドンでの主要20カ国・地域(G20)金融サミット(首脳会合)前夜の講演で、「ケインズ市場経済を救おうとした」と称賛した。
 1930年代の大恐慌期に生まれたケインズ理論が今でも役立つだろうか。ケインズ自身、「大きな規模で試されたことがない政策が有効だと証明するのは極めて難しい」と吐露している。
 ケインズは一国単位での財政出動の限界を見抜いていた。その「一般理論」では「すべての国が一丸となった」財政出動の必要性を説いている。そんな機会はないまま、ケインズ主義は米国など主要国でお蔵入りしていた。そして今、世界各地でほこりが払われた。
 成否の鍵は米国に次ぐ経済規模の日本にある。IMF見通しでは、2009年の日本の実質成長率はマイナス6・2%と先進国中最悪だ。日本は1990年代のバブル崩壊不況時に公共投資を中心にした財政支出内需拡大を図った。成果は不明なままだが、膨張した政府の累積債務が残された。結局、円安に後押しされた外需主導に逆戻りしてやっと不況から脱けたが、ケインズが失業増加の主因と断じたデフレはもう10年も放置され、社会を疲弊させている。
 ≪官僚主導方式の限界≫
 麻生太郎内閣はロンドン・サミット合意に沿って、総事業規模で56・8兆円、財政支出15・4兆円という戦後最大の財政対策を打ち出した。デフレ脱出の道筋には触れず、「一つひとつの政策を積み上げていった」(麻生首相)。各省庁から出された対策を寄せ集める官僚主導方式を膨らませた。にぎわうのはお役所仕事、太るのは官僚だ。
 恐るべきことに、これから追加発行する約16兆円の国債を消化するゆとりに乏しい。高齢化社会の日本の家計貯蓄率は急落し、慢性赤字の米国に逆転される情勢だ。貯蓄こそは赤字国債の吸収源なのだが、年間で6兆円と10年前の6分の1にすぎない。このままでは、長期金利が急上昇し、住宅ローン金利が跳ね上がる。少々の規模で相続税を減免して住宅需要を刺激しても、幅広い層がマイホームの夢をあきらめる羽目になる。デフレ不況に拍車がかかる。小手先の対策に終始する官僚主導の限界だ。
 このままでは世界最後の希望として無理やり蘇生(そせい)させられたケインズは日本で野垂れ死にするだろう。