ヾ(゜Д゜)ノ"新聞

角川とユーチューブ、提携の真の狙い(Column)
 角川書店グループが6月10日から、動画投稿サイトのユーチューブと連携し「夏の動画投稿ドリームキャンペーン」という催しを始める。一般から投稿を募り、閲覧の多い作者には映画券を贈呈する。「動画投稿を楽しさを知ってもらい、埋もれた才能を発掘するのが狙い」と発表資料にある。実はこの催しにはもう1つの顔がある。MADと呼ばれる「素人による改編作品」を今後どう扱っていくかについての「実験の場」という面だ。
そこに「愛」があるかどうか
 角川グループは今年1月、米グーグルと提携し、グーグル傘下のユーチューブで新事業を展開すると発表。2月にはユーチューブ内に角川アニメの情報などを見られる「角川アニメチャンネル」、3月にはグルメなど生活関連情報の「角川ウォーカーチャンネル」を開設した。
 夏のキャンペーンも提携の一環という位置づけ。「街のオモシロ動画」「ペット自慢」「ダンス」などの10部門で作品を募る。目標は1万件。10番目である「映像作品部門ほか」が注目の部門だ。
 投稿サイトをふだん閲覧されている方には説明不要だが、ユーチューブや日本の「ニコニコ動画」など、この種のサイトには著作権問題がつきまとう。既存の実写映画やドラマ、アニメ、バラエティー番組、ライブ映像などがそっくり投稿されていることも多い。ユーチューブ側は1本の投稿の長さを最長10分間に制限したが、それでも分割して投稿してくる。テレビ局などからの要請があれば削除するが、いたちごっこモグラたたきのような面があるのは否めない。
 もう1つの問題が改変だ。異なる作品を切り張りしたり、別々の作品の音楽と画像を組み合わせたり、絵の一部に手を加えたり。こちらの作品は「MAD(マッド)」と総称される。NHKが今年春から月1回の放映を始めた、ネット上の話題を紹介する番組「ネットスター」でも、早くもMADを特集で取り上げた。それほど投稿が盛んなのだ。いかにも素人芸という映像もあれば、技術やセンス、着眼でうならされる「作品」も少なくない。将来の有望作家の卵もいそうな気配だ。面白いものは閲覧リスト上位に来るので、ますます人気を呼ぶ。
 こうした状況から従来、作家や出版社、制作会社など「作り手」側と投稿サイトは微妙な関係にあった。膠着(こうちゃく)状態を打開する狙いが角川グループにはある。中心となっているのが角川デジックス社長の福田正氏だ。
 「『角川、MADを認める』などと言われますが、すべて認めるということではありません」と福田社長はクギを刺す。ただし、全否定ではないのがユニークなところ。白か黒か、ゼロか百か、ではなく、作者の利益、市場の発展、ファン心理のすべてに目配りした新しいモデルを模索する。今回がその第一歩という位置づけだ。
 キャンペーンが始まれば、角川がかかわったアニメを素材にした「作品」の投稿も予想される。対処する方針を決めるため、現在ユーチューブ上にある、角川関係の作品が登場する数万件の投稿をすべてチェックした。元ネタ、内容、どういう姿勢で扱っているかなどをリストにし、いくつかのタイプに分けた。
 全部否定するのは簡単だ。しかしそれではファン心理に水を差す。才能の芽をつぶすかもしれない。元ネタとなった作品の作者の姿勢もまちまちだ。一切手を加えてほしくない、という人もいれば、この種の遊びに寛容な作家もいる。
 また、何が作者の利益を最大にするかという視点もある。「一切禁止」すれば、作品が知られ、ファンや売り上げを拡大するチャンスを減らす可能性もある。実際、「涼宮ハルヒの憂鬱」「らき☆すた」など最近の角川のヒット作は動画投稿サイトで認知度(特に海外で)が広がったのは間違いない、と見る向きは多い。
 「昔、小学校で、漫画を上手にまねられる生徒は人気者だった。有名なプロの作家でも、最初は先輩作家の誰それのまねから出発したとはっきり言っている人は珍しくない」と福田社長。文化や創作とはそういうものだ、という認識が角川側にはある。しゃくし定規な法の運用は創作好きな人々を萎縮させる。そうなれば日本の「顔」のひとつになりつつあるコンテンツ産業の興隆につながらない、という危機感がある。
 角川デジックスは膨大な手間をかけて作成したリストをもとに作家らと交渉した。作品ごと、作家ごとに、どんな改変なら認め、どういうものは削除の対象になるかを決めた。角川が認めたMADには公認を示すマークを入れる。ただし完全無欠なマニュアルは無い。「極論すれば、そこ(改変)に『愛』があるかどうかです」と福田社長。似た手法での改変でも、作品やキャラクターへの愛の表現か、侮辱して喜ぶための表現かで判断は変わっていい、という。
 夏のキャンペーンでは映画券だが、いずれ広告を付け、その収入を投稿作品の作者にも分配する方針。キャンペーンではMAD用の素材をあえて提供する。新作アニメの宣伝素材になる模様だ。積極的に「どうぞ」と言ったとき、どんな作品が投稿されるかの経験を積むのも実験の目的の1つだ。
角川会長が全権委任
 一連の動きは、同人誌交換会のコミケが認知されていく過程を思い出させる。コミケ(類似の追随イベントも同じ)では、既存の作品の改変作品や「外伝」を、ファンが勝手に描き、印刷製本し販売している。当初、漫画出版社は苦い顔で見ていた。1990年ごろ、この問題を筆者が取材したとき、大手出版社の編集者の一人は「会社としては到底、認められない。しかし彼ら、彼女らは熱心なファン。(訴訟など)恨まれるような態度も取りにくい」とのジレンマを明かした。
 後にコミケ出展者からプロの漫画家やイラストレーターが続々誕生。現役の有名作家も「マスメディアより自由度が高い」と作品を制作、販売するようになった。外伝・改変作品は商売になると、当初はややマイナーな出版社が、その後は大手出版社もこうした「ニ次創作物」を「アンソロジー」などと呼び書籍化し始めた。最近では同じ雑誌に本来の作品と外伝が並行して連載されたり、外伝作品に元の作家が「原作」として名を掲載したりと、創作とビジネスの両面ですっかり溶け込んだ。
 動画投稿サイトのMADも当時の漫画同人誌に立ち位置が似ている。「角川グループとおつきあいのある作家さんは、(MADなどに)理解のある方が多い」と福田社長。グループを率いる角川歴彦角川グループホールディングス会長が、いわゆる「オタク文化」に理解が深く、市場をけん引役してきたことは広く知られている。「コミケを認めた僕が、ユーチューブを認めない、というのは生き方としてあり得ない」と角川会長は福田社長に語り、提携などの全権を委任したそうだ。角川に「出入り」する漫画家にもコミケ出身者は多い。この種の「愛」のありようを理解している、というわけだ。
 一方で計算もある。「今までは白と黒しかなかった。だから黒の人が『自分は黒ではなくグレー』と主張できた」と福田社長。「今後は(公認の改変作である)『グレー』ゾーンを作る。そうすれば『黒』とはきちんと戦える」。フーリガンとサポーターを区別する戦略だ。東京都が行っている大道芸人の登録制度を思わせる。これまで好き放題に暴れてきた向きは窮屈に感じるかもしれない。
 1月の提携発表の場で、角川会長は、日本の著作権制度について「憲法の財産権を基盤にしているが、現状はがんじがらめの規制になっている」との趣旨の発言をしている。「デジタル時代には原点に戻り、権利への経済的利益の環流を保証したうえで著作物を柔軟に扱える仕組みを整える必要がある」という(日本経済新聞2008年1月28日付朝刊)。
 面白いMADが増えれば元の作品の認知も高まる。広告が付けばMAD作者にも収入をもたらす。映像クリエーターが育ち、業界が活性化する。インターネットなので海外の日本アニメファンも巻き込みながら、こうした好循環が生まれる可能性がある。フランス料理人になる人がパリで修業するように、アニメクリエーター希望者が今以上に「未来の才能の育成に理解のある」日本で学びたがるようになる。囲い込みから共有と利用へ。紙媒体に続き、ネットでも新しいビジネスモデルを角川とユーチューブが産み出せるか、注目したい。



【産経主張】出生率 総力挙げて少子化対策
 1人の女性が生涯に産む子供数の推計値である合計特殊出生率が、平成19年は前年を0・02上回り1・34となった。2年連続での上昇だ。
 20代後半の女性を中心に産む人は減った。その一方で、団塊ジュニア世代を中心とする30代以降の女性に産む人が増え、第3子以上の出生数が多くなったことが一因だ。だが、連続上昇を手放しで喜ぶわけにはいかない。
 出生数は前年より約3000人減り、6年ぶりの増加となった前年から再び減少に転じた。少子化傾向には依然、歯止めはかかっていないと認識すべきである。
 出生数が減ったにもかかわらず出生率が上がったのは、出生数の減少が小幅だったのに対し、出産適齢期の女性数の減少幅が大きかったためだ。いわば、分母が減ったことが理由だ。これでは、出生率改善は“数字のマジック”といえよう。
 人数が多い30代が出産適齢期を過ぎれば、子供を産める女性人口は急速に減る。早急に手を打たなければ、少子化は政府の予測より早まるだろう。
 少子化の背景の一つに未婚・晩婚化がある。ところが19年の平均初婚年齢は夫、妻ともに0・1歳上昇した。ライフスタイルの多様化で結婚や出産をしない選択をする人も少なくない。だが、不安定な非正規労働者や低収入で結婚ができないという若者も多い。政府には、「就職氷河期」世代を含めた、若者の雇用環境の改善に本気で取り組むよう求めたい。
 結婚した後も「仕事か、子育てか」の選択を迫られ、産みたくても産めない環境がある。保育園や学童保育も足りない。教育費をはじめ子供を育て上げるには膨大なお金がかかる。こうした理由で、第2子や第3子をあきらめざるを得ない夫婦も少なくない。企業側の理解と協力も不可欠だ。
 昨年末、政府の「子どもと家族を応援する日本重点戦略検討会議」は、新たな少子化対策をまとめ、追加費用として年間1・5兆〜2・4兆円が必要と試算した。少子化の処方箋(せん)はおおむね出そろっている。もはや、政府には予算をどう捻出(ねんしゅつ)し、実行に移すかの決断のみが求められている。
 団塊ジュニアは年々、出産適齢期から離れていく。残された時間はわずかだ。安定財源の確保策を早急に明確にし、政府総がかりで対策に取り組むべき時だ。


バックナンバー
http://bn.merumo.ne.jp/list/00430000